東京地方裁判所 昭和42年(ワ)6286号 判決 1968年6月08日
原告
田中ユウ
被告
江東タクシー株式会社
主文
被告は、原告に対し六一万三、六〇〇円及びこれに対する昭和四二年六月二五日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は三分し、その二を原告の、その一を被告の負担とする。
第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一、当事者の求める裁判
(原告)
一、被告は、原告に対し二、〇九〇、四一八円及びこれに対する昭和四二年六月二五日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二、訴訟費用は被告の負担とする。
三、仮執行の宣言
(被告)
一、原告の請求を棄却する。
二、訴訟費用は原告の負担とする。
第二、当事者の主張
(請求の原因)
一、昭和四一年三月一六日午前零時三〇分頃、東京都葛飾区新小岩一丁目二〇番地先交差点において、徳田光男の運転する普通乗用自動車(プリンス足5―え―三、三三五、以下、被告車という。)と野上健三の運転する普通乗用自動車(ニツサン足5―い―二四〇)とが衝突し、これによつて、被告車に乗車していた原告は顎部挫創骨々折の傷害を蒙つたものである。
二、被告は、被告車を所有し、これを自己のために運行の用に供じているもので、本件事故は右運行により発生したものであるから、被告は原告に対し自動車損害賠償保障法第三条にもとづいて原告の蒙つた損害を賠償する責任がある。
三、本件事故により、原告の受けた損害は、次のとおりである。
(一) 治療費 一、六〇〇円
原告は、本件事故により大和診療所に入院したが、その際、初診療及び外傷処置料として一、六〇〇円を支払つた。
(二) 附添料 四万二、〇〇〇円
原告は、入院期間中及び退院後一週間、自力で動作することができなかつたので、附添を依頼し、四万二、〇〇〇円を支払つた。
(三) 弁護士費用 二〇万円
原告は、本件訴訟を弁護士倉田靖平に委任し、昭和四一年六月二日一〇万円を支払い、判決言渡期日に一〇万円を支払う約束をした。
(四) 得べかりし利益
(1) 休業補償 四万五、〇〇〇円
原告は、サロン「スリー・ホース」のホステスとして、平均月額六万円の収入を得ていたが、本件事故による受傷のため、事故当日から一カ月余り働くことができず、その間全く収入を得ることができなかつたから、右六万円から一万五、〇〇〇円の必要経費を控除した四万五、〇〇〇円の得べかりし収入を失つた。
(2) 将来の得べかりし利益 八〇万一、八一八円
原告は、本件事故当時一八才で、二五才で結婚するとしても、少なくとも、後五年はサロン等のホステスとして、働くことができ、前記収入を得ることができた。ところが、原告は前記傷害により、右鎖骨部のケロイド瘢痕、該神経部凸出のため、キヤバレー、サロン等のホステスとして必要な胸開きのドレスを着用することができなくなつたため、その必要のないバーで働くほかなく、そのため、月額平均収入三万円を下るようになつたので、サロン等のホステスとしての収入六万円との差額三万円から一万五、〇〇〇円の必要経費を控除し、さらに、年五分の割合による中間利息を控除し、その一時払を求めると、その価額は八〇万一、八一八円となる。
(五) 慰藉料 一〇〇万円
原告は、新潟県新発田市から上京し、家計を助けるため、収入の多いサロンのホステスとして働いていたものである。ところが、原告は、本件事故による傷害のため一カ月間入院し、しかも前記症状を残し、そのためドレスを着用することができなくなり、これらの諸事情を総合すると、原告が本件事故によつて蒙つた精神上の苦痛に対する慰藉料は一〇〇万円が相当である。
四、よつて、原告は、被告に対し二〇九万〇、四一八円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和四二年六月二五日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(請求の原因に対する答弁)
第一項、第二項はいずれも認める。第三項は争う。
第三、当事者の提出、援用した証拠 〔略〕
理由
一、請求原因第一、第二項の事実は、当事者間に争いがない。従つて、被告は、原告に対し、本件事故により原告の蒙つた損害を自賠法第三条にもとづいて賠償する責任がある。
二、そこで、原告の蒙つた損害について判断する。
(一) 治療費について
〔証拠略〕によれば、原告は、本件事故により、昭和四一年三月一六日から同年四月一六日まで大和診療所に入院退院後も同月一八日まで二日間通院し、初診料及び外傷処置料として一、六〇〇円を同診療所に支払つたことを認めることができ、右認定に反する証拠はない。従つて、原告は、本件事故により一、六〇〇円の損害を蒙つたことは明らかである。
(二) 附添費用について
原告は、前記認定のとおり入院、通院して治療を受けたところ〔証拠略〕によれば、昭和四一年三月一六日から同年四月二〇日頃まで附添を依頼し、その費用として合計四万二、〇〇〇円を支払つたことを認めることができ、右認定に反する証拠はない。
しかし、〔証拠略〕によれば、前記大和診療所の医師は、原告のために一〇日間の附添の必要を認めていることが明らかであるから、右金額のうち、附添費用として七、〇〇〇円の限度で被告に負担させるのが相当である。
(三) 弁護士費用について
〔証拠略〕によれば、原告は、本件事故による損害賠償額を被告が任意に支払わなかつたため本訴を提起せざるを得なかつたこと、そのために、原告は、本件訴訟を弁護士倉田靖平に委任し、昭和四二年六月二日一〇万円を支払い、更に、報酬として所定の金額を支払う約束をしたことを認めることができ、右認定に反する証拠はない。
しかし、本件事件の難易、被告の抗争状況、その他諸般の事情を考慮して、右費用のうち、六万円を被告に負担させるのが相当である。
(四) 得べかりし利益について
(1) 休業補償について
〔証拠略〕によれば、原告は、本件事故当時、サロン「スリーホース」にホステスとして働き、平均月額四万五、〇〇〇円程度の所得があつたこと、原告は、本件事故による受傷のため昭和四一年三月一六日から同年四月一六日まで入院し、その間働くことができず、全く収入を得られなかつたことを認めることができ、右認定に反する証拠はない。
そこで、原告は、本件事故に遇わなければ得られたであろうところの四万五、〇〇〇円の利益を失つたこととなる。
(2) 将来の得べかりし利益について
〔証拠略〕によれば、原告は、前記サロン「スリーホース」において、本件事故前胸の開いたドレスを着用して働いていたが、本件事故により受けた右鎖骨部のケロイド瘢痕、該神経部凸出のため、ドレスを着用すると、これらの瘢痕が見えるために、結局右「スリーホース」をやめ、バーで働くことにしたため、その収入が半減したという趣旨が窺われる。しかし、右事実をもつてしても、直ちに、本件事故による負傷の結果、原告が収入の多いサロン、キヤバレー等のホステスとしての稼働能力を失つたものといえるかどうかは必ずしも明らかでなく、他に右因果関係を肯定すべき証拠はない。
(五) 慰藉料について
原告は昭和四一年三月一六日から同年四月一六日まで入院し、退院後二日間通院したこと、本件受傷により右鎖骨部にケロイド瘢痕、該神経部凸出の傷跡を残したことは、前記認定のとおりであり、しかも、原告が事故当時一八才の未婚の女性であつたことは〔証拠略〕から明らかである。これらの事情を総合すると、本件事故により原告の蒙つた精神的苦痛を金銭にかえると五〇万円を相当とする。
三、そうすると、被告は、原告に対し以上合計六一万三、六〇〇円の損害賠償金及びこれに対する訴状送達の翌日であること記録上明白な昭和四二年六月二五日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるが、その余の原告の請求は理由がない。
よつて、原告の本訴請求中、右の限度でこれを認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九二条本文、第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 福永政彦)